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植民地朝鮮の日本人宗教者
前川妙順ノ布教届書ニ関スル信徒総代申出ノ件㉖0194-0222
0194
前川妙順ノ布教届書ニ関ス
ル信徒総代申出ノ件
右前川妙順ハ元ト日蓮宗所属ノ尼僧
ニシテ現今ハ本門法華ニ僧籍ヲ置
0195
クモノナリ而シテ同人ハ平壌府泉町ニ居
住シ大正十五年十月十六日附ヲ以テ布教
届並ニ布教所設置届ヲ差出シタルモ
其ノ修学履歴洵ニ低級ニシテ布教者
タル資格ヲ有スルモノト認メ難ク尚ホ教
師分限ヲ享有スル点ニ付テモ甚タ疑ハシ
キ廉アルヲ以テ篤ト取調候処布教者タ
ル資格分限ヲ有セサルコト明カナルヲ以テ
成規ニ依リ正当ノ手続ヲ経テ届出ノ
書類ヲ却下致シ候処過般来右
0196
前川妙順ノ行為ヲ援助セムトスル宮原
寅次郎外四名ノ者其ノ信徒総代ト
称シテ別紙ノ通政務総監ヘ陳情的ノ
願書ヲ提出シ尋テ所願ノ貫徹ヲ要
望スル陳情書ヲ提出シ来レリ
右宮原寅次郎外四名ヨリ提出セル願書
ハ地方官庁ヲ経由セス直接ニ政務総監
ヘ差出シ秘書官査閲ノ上主務課ヘ
交付相成候ニ付曩ニ却下処分禀議
ノ際縷述セル要旨ヲ登陳ヘ決裁ヲ仰ク
0197
骨目ト為シ而シテ本件ハ秘書官ヨリ
提出書類ヲ差戻サルルコトニ取扱可然モ
ノト思考シ其ノ文案トモ併セテ左ニ相
伺候
一前川妙順ハ元ト日蓮宗所属ノ尼僧
ナルカ大正十五年二月十五日附ヲ以テ脱宗
届ヲ宗務院ニ提出シ同年四月五日
宗務院ニ於テ該届書ヲ受付同日
僧籍ヲ削除セル事実ハ別紙日蓮
宗管長ノ回答ニ依テ明カナル所ナレハ
0198
前川妙順ハ大正十五年四月五日日蓮宗々
務院ニ於テ僧籍削除迠ハ日蓮宗所
属ノ尼僧タルコト確カナル事実ナリ
二然ルニ本門法華宗管長ハ前川妙順
カ前ニ日蓮宗所属ノ尼僧タルコトノミヲ
認メ同人カ自宗ニ帰属セル事特ニ帰
属ノ時日等ニ付テハ之ヲ確ムル手続ヲ
為サス所属寺院及僧侶ノ申立ヲ偏
信シテ
(イ)大正十五年二月五日本山光長寺ニ於
0199
テ前川妙順ニ入寺、昇堂及交衆ヲ
許シタル折紙ヲ与ヘタル事実ヲ認メ
(ロ)大正十五年二月七日本山光長寺ヨリ
差出シタル僧籍編入願ヲ許容シテ
前川妙順ヲ本門法華宗所属ノ
尼僧ト為シ
(ハ)大正十五年三月二十九日ニ在リテ前川妙
順ヲ教師補ニ補命セリ而シテ補
命ノ事由ヲ推尋スレハ前ニ日蓮宗ニ
教師タル経歴アルニ由ルト云フニ在リ
0200
以上別記シタル事実ヲ比較シテ検考スル
トキハ本門法華宗管長ノ処置ハ他
宗ニ属スル僧侶ヲ自宗ニ帰属セル如ク
仮装セル部下ノ寺院僧侶ノ申立ヲ軽シ
ク信用シテ僧籍編入及教師補命ヲ
為シ以テ宗制寺法ノ施行上ニ例行逆施
ノ結果ヲ顕ハシタルモノナリ特ニ僧侶ノ
法縁ハ師弟関係ノ誓約ニ依テ成立ス
ルモノナレハ山田日要ト前川妙順ノ師弟
関係成立以前(師弟関係ハ大正十五年三月
二十九日ニ在リト本人ハ申立タリ)
0201
即チ二月七日ニ在テ僧籍編入ヲ許シタ
リト云フハ益以テ不合理ノ事実ヲ暴露
セルモノト云ハサルヘカラス
之ヲ要スルニ宮原寅次郎外四名ノ陳情
的出願ハ宗内ノ事情ニ通セス且ツ前
川妙順カ姑息弥縫ノ策ヲ弄シテ官
民ヲ瞞著セムトスル非行者タルコトヲ知
曉セスシテ徒ラニ片言ヲ聞キ認容シ
難キ事柄ヲ認容アラムコトヲ請フモ
ノナレハ左案ヲ以テ秘書官ヨリ御申
0202
入相成可然乎
案
朝鮮総督秘書官
平壌府泉町二二
宮原寅次郎殿
外四名
九月三日書留郵便ヲ以テ前川妙順ノ
布教届出ニ関スル件ニ付政務総監
宛ニ書面御差出相成候ニ依リ夫々
取調候処右ハ主務ノ局課ニ於テ調
0203
査ノ末成規ニ照シ受理スヘカラサルモノ
ト認メ相当手続ヲ経テ却下相成タ
ルモノニ候間右様御了知相成度依
テ御送付相成タル書類ハ之ヲ一括シ
テ差戻シ候ニ付御査収相成度候
0204
京城総督府官舎
湯浅政務総監閣下
書留親展
0205
平壌泉町二二
大正庵信徒一同
十二月二日
0206
政務総監 秘書課長
学務局長 文書課長
謹んで残暑の折柄遥に伏して
閣下の御健康を祈り奉候
非礼お顧ず此処に書状お上り
嘆願に及び候
昨大正十五年十月十六日別紙
法華宗布教所認可願を平
壌府庁へ差出し平安南庁を経
し総督府へ上申あり認可あるべ
きお信じ候越への昭和二年三月
十六日別紙の理由を記し返戻致
され候前川師の落胆信徒一同
の失望其極に達し候前川師わ
人格高潔の尼僧にして私欲なく
只管仏道に精進致され候別紙
甲の通り本門法華宗管長飯高
日享師より教師に叙られ仏道に入
りて八年僧侶としての資格有之
候に係らず 本門法華宗宗制
及宗規に依りて適法に教師分限
を有するものと認め難き旨お以て
本府より返戻相成り候も本門法
華宗に於てわ管長よりの免状
の外他に僧侶なるの免状の出ずる
所無之最も神聖なるものと信じ
申候宗制宗規に依らざる免
状を一宗の管長より下附あるべき
道理無之候 去る三月二日京城
鶴松寺住職御牧清勤師より
招電に接し前川師わ信徒総代
を伴ひ出城御牧師へ面会の節
の御話に四五日内に学務局より視察
に出張相成るとの事に候わば相
待ち居り候も何等視察もなく其
れより十余日お経て三月十六日に返
戻と相成り候 現時朝鮮に於ても
各所に仏教団体の組織お見
0207
教隆盛の機運に向わんとし朝鮮
現下の情勢に照し誠に喜ばしき
事に候当平壌に於ても各宗各派
多数有之真言宗醍醐派の如き
第一第二第三分教会まで有之候
前川師へ本山より下附せられたる
免状が宗規に依るか否やわ本門
派本山へ御照会下さらば直ちに判
明致す次第に候前川師の人物
に就てわ当地警察なり府庁より
御聞き取り被下度何卒布
教所設置届に儀に就き再
調査仰その程付伏して奉願
候
湯浅政務総監閣下
大正庵信徒総代
宮原寅次郎
肱岡愛之進
木村勘藏
杉江なか
0208
平壌府泉町二二
大正庵
信徒一同
0209
朝鮮総督府
湯浅政務総監閣下
親展
0210
謹んで閣下の御健康
お遥奉祈候
非礼お顧ず再び書状
お呈し閣下に御申上候
九月三日布教所認可
届再提出仕り候処未
だ当夜道庁へ御伺い仕り
候も未だ御認可のお達
し無之本年却下に相成
り候わ前川師所持の祈
祷免状の発行者たる
静岡県駿東郡足抦柄村
竹(*)の下要名山常唱院
山田日要師が免状発
行の資格なきと中彿せる
者あり為めに却下に相成
り候由此度聞(**)き及び候果
して右山田日要師に
右の資格の有無充分御
調査の上何卒御認可
仰せ出し被下度一同伏
して奉願上候
湯浅政務総監閣下
信徒総代
宮原寅次郎
肱岡愛之進
木村勘藏
杉江なか
(*)「竹」、(**)「聞」:竹永三男氏よりご教示頂きました。
0212
日蓮宗
昭和二年十二月三日
日蓮宗管長 酒井日慎
朝鮮総督府学務局長殿
尼僧ノ宗派転属及師僧替ノ件回答
本年十一月二十九日附御照会神戸市兵庫永澤町二丁目十四番地前川妙順
ノ件左記ニ回答候
記
一、御照会ノ列記事項ノ内二ノ三ハ相違無之候
一、前川妙順カ本宗ノ僧籍ヲ離レタル年月日
右前川妙順ハ大正十五年二月十五日附ヲ以テ脱宗届ヲ提出、同年四
月五日受附同日僧籍削除
0213
尼僧ノ宗派転属及師僧替
ノ事実問合ノ件
朝鮮総督府学務局長
東京市芝区二本榎町一丁目一五
0214
日蓮宗管長宛
左記ノ事項ニ付貴宗取扱上ノ事実
詳ニ承知致度御手数ナカラ御取
調至急御回報煩ハシ度及照会候候
神戸市兵庫永澤二丁目十四番地
前川妙順
明治三年三月二十六日生
一 旧名瀧千代大正十年八月十九日妙順
ト変更許可ノ旨届出タルコトヲ戸籍
謄本ニ記載アリ
0215
二 大正八年五月十五日東京府荏原郡六
郷村観乗寺住職増田宣輪ニ入
弟
三 大正十一年五月十五日日蓮宗宗務院ヨ
リ四級試補ニ叙セラル
四 大正十五年三月二十九日静岡県駿東
郡足柄村要名山常唱院住職山
田日要ニ入弟
五 大正十五年三月二十九日本門法華宗
管長ヨリ教師補ニ叙セラル
0216
六 大正十五年五月二十一日訓義ニ叙セラル
右ハ前川妙順カ大正十五年六月一
日附ヲ以テ調製シ署名捺印ノ
上布教届ニ添テ提出シタル履歴
書ノ大要ナリ
問合ノ要点
以上列記事項ノ内二、三ニ記載セル事
実ハ貴宗ニ於テ確認セラレアリヤ
又前川妙順カ貴宗ノ僧籍ヲ離シ
タル年月日即チ宗派替師僧替ニ
0217
原由シテ日蓮宗ノ僧尼籍ヲ除カレタ
ル時日ヲ正確ニ回報煩ハシ度
本案起案ノ理由
本件ハ前川妙順ヨリ差出シタル布教届
並ニ布教所設置届ヲ却下シタル事ニ付
其ノ信徒総代ト称スル宮原寅次郎外四
名ヨリ公式ニ依ラス政務総監宛ニ書
面ヲ差出シタル為関係文書ヲ秘書官
ヨリ回付ヲ受タルモノニ有之候
0218
本件ハ身分閲歴ニ齟齬アル事実ヲ
根拠トシテ布教師タル資格分限ヲ有
スルコトヲ骨張スルモノナレハ素ヨリ以テ御
認容可相成筋ニハ無之候ヘトモ此ノ機
会ニ於テ前川妙順カ事実ヲ虚構
スル證迹ヲ確挙スル為日蓮宗宗務
院ニ問合ノ必要ヲ認メ本案ヲ具シ御
伺候也
0219
写第壱号書
印可
印 本門法華宗 前川妙順
入寺昇堂令交衆畢
大正十五年二月五日
大本山光長寺印
0220
写第二号書
光長 僧籍編入願
拙山末常唱院住職山田日要徒弟
前川妙順儀本月五日付ヲ以テ入寺許容
致候條貴庁僧籍ヘ編入相成度
此段及申請候也
大正十五年二月七日
光長寺住職
大僧正 木村日舜 印
本門法華宗
大僧正 飯高日享殿
0221
行賞申請書(写)
静岡県駿東郡足抦村常唱院住職
山田日要徒弟
教師補 前川妙順
右前川妙順尼ハ新領土タル朝鮮ニ於テ立
正大師ノ教風ヲ宣陽シ数多ノ信徒ヲ得テ
既ニ教会所設立ノ基礎ヲ確立シテ出願ノ
運ニ至リ居ル次第ニ御座候得共同人ニ対
シ特別ノ御詮議ヲ以テ行賞ノ榮ニ預リ度
此段願上候也
大正十五年七月八日
右師僧
山田日要 印
本門法華宗第八教区
宗務取締 能受日章 印
本門法華宗管長
大僧正 飯高日享殿
0222
行賞副申書
拙山末静岡県常唱院住職山田日要徒弟
教師補前川妙順義別紙申請書ノ通リ新
領土タル朝鮮ニ於テ布教ニ従事シ多数信
徒教化セシメタルハ奇特トス依テ宗規第十四
号第一条第一項及第五項ニ依リ行賞相成
度此段及副申候也
大正十五年七月八日
大本山光長寺住職
大僧正 木村日舜 印
本門法華宗管長
大僧正 飯高日享殿
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