top of page

1-1

「日本人」の上途を餞す 志賀重昂 

「日本人」将に出でんとす矣、如何なる文字を寫してか爾

が行色を壯にせん、呼嗟想ふて此處に到れば意匠蕭疎、轉

た筆を擲んとするものあり、何となれば爾が前途の迢々

として啻に路八千のみならず、雲ハ奏嶺に横ハりて雪藍

 關を擁し、行程崎嶇、馬玄黃、長亭短亭到る處、斎く是れ爾

 が歩を碍へ脚を渡らし、爾が衣を裂き視聴を震驚せざる

 無きを以てなり、若夫れ爾の上途をして猶ほ遂臣の謫所

 に就くが如く、些の目的も無く希望もなき者とせば予輩

 ハ乃ち爾に餞するに陽關三疊の悲歌を以てせんのみ、然

 れ共予輩ハ斷信す、爾ハ遂臣に非ず、謫所に就く者に非ず、

 復た必ずや若干の目的と幾多の希望を懷抱する者なる

を、然れば其初め爾が征途ハ偏に崎嶇曲折なるにもせよ、

bottom of page