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「日本人」の上途を餞す 志賀重昂
「日本人」将に出でんとす矣、如何なる文字を寫してか爾
が行色を壯にせん、呼嗟想ふて此處に到れば意匠蕭疎、轉
た筆を擲んとするものあり、何となれば爾が前途の迢々
として啻に路八千のみならず、雲ハ奏嶺に横ハりて雪藍
關を擁し、行程崎嶇、馬玄黃、長亭短亭到る處、斎く是れ爾
が歩を碍へ脚を渡らし、爾が衣を裂き視聴を震驚せざる
無きを以てなり、若夫れ爾の上途をして猶ほ遂臣の謫所
に就くが如く、些の目的も無く希望もなき者とせば予輩
ハ乃ち爾に餞するに陽關三疊の悲歌を以てせんのみ、然
れ共予輩ハ斷信す、爾ハ遂臣に非ず、謫所に就く者に非ず、
復た必ずや若干の目的と幾多の希望を懷抱する者なる
を、然れば其初め爾が征途ハ偏に崎嶇曲折なるにもせよ、
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