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日本殖産策 今外三郎
殖産隆にせざるべからず工業盛にせざるべからずとは二
三年以來余輩が頻りに耳にする所の通語なり余輩は日本
人民として此語を悦ばずして可ならんや抑も吾國ハ自然
の地形より論ずるも其地味よりするも實に天然の商業國
工業國たり漁すべきの海は万般の魚類に富み耕すべきの
地ハ豐沃限りなく原料其者に乏しからず薪炭其物を欠か
ず天然の備至れり盡せりといふべし自然より給せられた
る事情夫れ此の如く恰好なり然るに顧て農家漁夫其他實
業家の狀態如何を顧るに其衣食に困難なる實に言ふに忍
びざる者あり而て此狀態は後來に至り一層の甚しきを加
ふるが如し國人たるもの今日に於て之れが救濟の道を講
せずして可ならんや而て此狀態を來せる原因は果して何
れにか在る余輩ハ信す吾國の產業の振はざるに因る事を
苟も産業にして盛大に至らんにハ人々個々の富自ら增加
するの理ならずや果して然らんにハ産業發達の道を究む
るは今日の急務にあらずして何ぞや而るに余輩が今日に
至るまで耳にせる産業論ハ種々あるが如しと雖も産業の本
源に溯り之れが基礎を强固になさん事を論する者に至て
ハ未だ嘗て見ざる所なり根本を安固にせずして徒らに枝
葉の美を望むが如きハ到底自然の理之を許さゞる者也こ
れ蓋し余輩が本論題を呈出するの止むを得ざるに出でた
る者也而して余輩が豫め産業上主要なる一二現象を論じ
其利害得失を究め然る後之が方策を述べんとす
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