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更なり又我墨陀東台等至る處として櫻花爛熳靄駘として

滿場時ならざるの白雲を抹し其風光字內萬國に冠絶たり

鳴呼我邦ハ櫻花の艶嬌に於てハ今猶ほ此の如く之れを外

人に誇るを得べきも獨り人民の元氣則ち我邦の日本魂に

至りてハ如何ぞや依然として舊体を改めず櫻花と共に

之を外人に誇示するを得べきか抑も人心ハ日々に敗頽を

極め姑く無事に息ひ安を小成に偷むの傾向はなきか有為

有識の士にして類を刀筆の吏と同ふし拜趨俗に媚び恬と

して心に感奮する處を知らざるの弊風ハ存せざるか兄弟

墻に闘ぐも外能く異邦の侮を防ぐに足るべきか敢爲自立

の氣象は歐米人士の專有にあらずして又吾國人も具備し

居るを認むべきか余は思ふて此に至れば百感交々至り轉

た杞憂に堪へざるものあり時に孤燈沈々四邊寂寥たり燈

火明滅將に消えんとするの際快欝深思心表に浮ぶ處少な

からず之を書して一片の文を得たり

史を接ずるに大古人智猶ほ未だ朦昧の時に當りて先づ文

化の端緒を開きたる者は必ずや眠食に餘裕を有する者に

他ならず妻は饑に泣き子は飢に哭し薄衣麁食何の暇あつ

てか文明を語らん衣食足りて始て起る者は豈啻に禮節の

みに止らんや而て初め眠食に餘裕を生ずる者ハ果して何

等の原因に憑るか野蠻不文の民精巧の機械あるに非らず

天領侵略の智力あるに非らず只だ唯だ天與の賜を之れ頼

み自然の幫助に之れ依るのみなれば幸にして天賜豐富な

る處ハ之に浴して申々如たるも不幸にして之に反する處

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