植民地朝鮮の日本人宗教者
記事題目
「朝鮮の佛敎は朝鮮人の手で―と 奮起した朝鮮佛敎普及會 李元錫氏の大活動」
作者
雑誌名
『中外日報』
号数等
年月日
1930年6月29日
本文
朝鮮半島の佛敎の興起を朝鮮人の手で真に起さねばならぬ、といふ念願に燃えてこの十年がほどは足がスリ切れるほど活動して内地佛敎界には知人の多い李元錫氏は今度朝鮮佛敎普及會といふを作り朝鮮佛敎の興隆のための外護者として知られた李允用男爵を會主とし自ら副會主となり自由な猛運動を開始し内鮮とも名士の賛助を得て去日入洛、今月中の豫定で京都佛敎界との聯絡を求めつゝある、その會の趣旨と會則は左の如きものである。
趣意書
本會は思想善導の爲め觀音經及び其他佛書を流布し一般家庭に佛壇を安置し毎朝御經を読誦せしめ且つ全鮮に巡回講演をなし佛敎の大慈悲心と參宝四恩の精神を普及し以て半島二千萬の同胞を匡救し共存共栄の福祉を增進せんと發願せり有志諸賢幸に我が朝鮮を理解し同情して邦家の爲め佛法の爲め御賛成の栄を賜らば國家民衆の慶幸これに如かざるなり
規則
第一条 本會は朝鮮佛敎普及會と称す
第二条 本會は本部を京城に置く但必要に応じ各地に支部及敎會を設置す
第三条 本會は佛敎を普及し社會敎化を以て目的とす
第四条 本會は佛敎信者及本會の趣旨を賛助する者を以て組織す
第五条 本會の事業は左の如し
一、 觀音經及其他佛書の頒布、佛壇安置
二、 佛敎講演及講話會等を開催し佛敎宣伝及社會敎化をなす
第六条 本會の役員は左の如し
一、 會主一名 二、副會主一名 參、理事若干名 四、顧問若干名 五、相談役若干名
六、幹事若干名(下略)
尚ほこの運動の第一段として全鮮々人の民家に佛壇を祀ることの運動を先づ啓蒙的になし且つ朝鮮は觀音信仰の多い關係から觀音經百萬部を送ることになつて居る、尚ほこの朝鮮人に依る朝鮮佛敎の興隆としての運動は左の趣旨で明かである。
朝鮮佛敎普及會は何をするのであるか
日本の佛敎は初め朝鮮より伝來した○で參國時代より盛んに行はれ高麗朝に至りて興隆を極めて其反動とも見るべく李朝となりて崇儒廃佛の結果佛敎は衰頽して見る影もなく僅かに形骸を存して居るに過ぎぬ、儒敎も一時振興せしが李朝中世以降は儒敎の精神を没却し徒らに章句の末に流れ學派争論して同党異伐を事とし政争と混流して極度の神經衰弱に陥つたのであります。これが更生の道は熱愛を注射して精神的に振起せしむるにありと思料せらるゝのであります。其方法は種々有るでありましようが、二千年來朝鮮文化の根本たりし佛敎を振興することが最も適切にして近道と信ずるのであります、故に本會は先づ第一の事業として篤志の方々に御願ひして觀音經の寄贈を受けこれを全鮮に頒布し遂には毎戸一部を藏する如く流布したい念願であります。
朝鮮四萬戸に一戸一部づゝを頒布するには四百萬部を要しますが、其四分の一、乃ち百萬戸に觀音經一部宛寄贈し得たとすれば一戸平均五人として五百萬の同胞に佛縁を結ぶ次第で精神的大事業の遂行と称すべきであります。
されば朝鮮佛敎普及の第一着手として百萬部の觀音經を全鮮の同胞に頒布する目的を以て先づ内地の善男善女より施主の署名せる觀音經の寄贈を請ひ、其數約數萬部に達せば各道知事、府尹、郡守、警察署長、面長其他地方官民有力者の參列を乞ひ全鮮各地に於て頒布式を擧行し適當に之を頒布し更らに第二回第參回と漸次歩を進めて彼岸に達せむんとするのであります。
一面これと竝行して講演、混話、映畫、文書等種々なる方法によりて佛敎精神の宣伝及思想善導に努め、依て以て本會の目的を達成せむとするのであります。