植民地朝鮮の日本人宗教者
記事題目
「西本願寺韓人敎會概況」
作者
雑誌名
『中外日報』
号数等
年月日
1908年4月7・8日
本文
西本願寺の開敎に従事せる韓人敎會は昨年の始めより其準備に取り係かり、漸く九月仮敎會場として京城西署谷川町大觀亭区域内に設立させてをる。先づ日本の宗敎者にして以前より韓人敎會に従事してをるのは浄土宗と東本願寺の二つであるが、年數の經過の割には盛大でなひ西本願寺が昨年から遣り出し今年になりて會員の增加は日進月歩の有様である、昨今日本の基敎が或意味に於て従來外敎徒の間を調和せんとする意思がある様子だけれども、現今は日本人の敎會専務で韓人までは及ぼしてをらぬ。
本派の韓人敎會の名称は佛敎真宗本派本願寺大聖敎會と唱へている、大聖と云ふ事は韓人が大変喜ぶからである。
現今の開敎使は主任として巌常圓氏が専ら是に當り、同師は前に慶尚南道機張郡普通學校に在りて敎鞭を採つて居た人で能く韓語に通じて居る、昨年から韓國開敎總監部に招かれ韓國開敎使に任ぜられたのである。其の他に開敎使一名雇員等である。
敎場の模様 は如何と云ふに仮敎場であるから元より非常に狭ひ、正面上檀には佛壇がありて左側に演壇が設けられ、右側には開敎使の席がある、夫から正面から細ひ道筋が場内にありて、其の左右が參聴席に當られているのである、後方には敎會の韓人委員席がある、その他は随意參聴席に當られてをる。
敎會法要 敎會の法式等は韓國の風習に従ひ且つ現今の社會に適當したる組織になつてをる、是は大谷總監等が専ら研究せられ、種々協議の上で出來たのであるそうだ、而して敎會は特別敎會と定期敎會の二種に別れてある、特別敎會日とは日韓大祭日、釈尊の降誕會、涅槃會、真宗開祖降誕會、同じく開祖忌其他臨時法要即ち追吊會等である、又定期敎會は一ヶ月二回あつて、男子部女子部に別けてある、都合四回で何れも陰暦を用ひてをる特別敎會式次は定期敎會式辞と略同一だから定期敎會の模様を略記して見れば
第一鐘 午後參時(京城時間)
第二鐘 同 參十分・・・・以下、判読不能により省略・・・・
殊に此の法式中従來の真宗の式次とは大に違つているが、日韓人の最も称讃してをる点は、僧侶も信者も共に勤式をする事と、勤式の間に説敎日程論告等があると云ふ点である、従來の様に長ひ勤式がありて又後に長ひ説敎があると云ふ内地の式では今日の人間は中々退屈して大切な説敎が耳に入らぬ様である、此点は日本でも改良ありて然るべき事と感ずる、又其の敎會日の鐘も二度打つ、第一回で家を出で第二回で丁度集合する様になつてをる、随分細密なる点迄注意してある様だ、其他入會式、結婚式、改悔式、初詣式、葬式と云ふものがある。
會員は二月の調べによれば男子部四百二十二人、女子部八十二人であつたが、昨今本願寺に大分人氣が集た様だから、此頃五六百名もあろう。
職員 韓人中より綱長、敎友長、伝道員の參種である、伝道員と云ふは専ら會員の取締又は世話係で、又誘導及信仰行動等に注意する役である、信者五十人以上を擔當してをる者を敎友長、百人以上を綱長と云ふて何れも篤實なる信仰者で、學問も位地も比較的優れてをるものゝ内地より選抜するので、特別の待遇法が設けてある。
敎會員記章 は二つ巴の中に卍あり、其の外に五七の桐章がある、此の意匠は巴は韓國の紋で卍は佛敎を示し、桐は本願寺の紋である、裏面には佛敎真宗本派本願寺韓國敎會章と記してある、此紀章は信徒となりて初めて佩用するのである。
青年會 は毎月一日及各日曜日に開會し日韓の名士及開敎使の演説がある、何れも韓語である、韓語の出來ぬ人は通訳を用る事もある。
婦人會 は目下計畫中だとの事である。韓國の婦人の會合は實際困難であるから成立上大に研究して居る。
敎育 は未だ是れといふて見るべきもはないが、日語、英語、歴史等の敎授を爲てをる、學生は男子四十名程で女子は極めて少ない、夫は女子の敎育といふは政府の學部である中々困難を感じて居るので、一例を擧ぐれば女學校は家屋より研究せねばならぬ、然し女子の學校が他にないから熱心者なると男装して來るといふ事である。
讃佛集 讃佛集といふものがある、此は式に用ゆるものであつて、敎會日には會員が携へて參詣する、若し持參せぬものがあれば敎會場にで代用せしむることになりてをる、今製本編纂中だから仮本を用ひて居る。
此の様な組織で且つ熱心であるから宮中に於ても大に喜ばれてをる様だ、此の間の乾元帥の特別法要には特使や下賜金等も有つた、政府も統監府も大に注目してをる、殊に外敎即ち米佛英の基敎徒も頗る注目の様だ、且つ日本佛敎各宗側も大敵が表はれたといつてをる、又日本人敎會の方でも従來の在留信徒は元來西派の信徒が多いのであるから、東本願寺は大に狼狽の體である、又近々京城附近の龍山坊及麻浦の韓人部落にも會員の熱心者から出張布敎希望の願書が出るといふ有様で、爰五六年本山が熱心に費用を出したら、敎會が完備するのみならず、所謂日本政府の対韓策にも大に面白き間接的良結果が表はれるだらう、だから本願寺としては今が最も注意すべき時機である先きに述べた様に日本の基敎も今回大々的活動をする様てあるから韓國の宗敎界は大に色めいて來た、本願寺たるもの此際方針を誤らず遣らねばなたぬ(京城見聞生記)